News & Myself
Produced by Ryoko Kuwana
MYSELF:西田敏行さんのやさしさ
29 August 2022
なぜ私がたった一人で、小さいカメラだけを持って西田敏行さんの取材に行ったのか…。
よく覚えていないんです。
もう15年以上前のことです。
ある会報誌の取材で、
「カメラマンも照明もディレクターもいないけど、がんばって」と言われ、言われるがままにひとりで取材先のNHKへ向かいました。
この日は、女性の大御所歌手を取材して、
そのあとに西田さんの取材をさせて頂くことになっていました。
女性歌手を会議室で待っていると、
時間通りに初老の男性マネージャーと共にいらっしゃいました。
早速お話を聞こうと思ったのですが、
女性歌手はマネージャーの言動に腹を立てているようで、座るやいなや激しくマネージャーを叱責しました。
私には目もくれず、ひたすら大きな声で怒りをぶつけていました。
私は口を挟めるわけもなく20分ほどその光景をただ見ているだけでした。
あまりの激しい怒り方に私は委縮して、体がカチカチになっていました。
そのあとに西田さんのインタビューもあるというのに、このままでは時間切れになってしまうという焦りもあって、額から汗が噴き出していました。
しばらくして、マネージャーさんが「そろそろ取材をしないと…」と促してくれたので、とりあえず話を聴くことはできたのですが、女性歌手は機嫌が悪く、私にもあたりが強く、私は委縮しすぎていて、決していい取材にはなりませんでした。
私は上手く対応できなかった自分が情けなく、自己嫌悪でいっぱいでした。
その直後、西田さんにお話を聴くために1階のラウンジか、ロビーかに移動しました。動揺していてどこだったかよく覚えていないです。
しばらくすると番組出演の合間の時間を縫って来てくれた西田さんは、マネージャーは同行せず、ひとりでやってきて、まん延の笑みで私のいるテーブルの対面に座って、
「いやいや、どうもお待たせしました」
と言いました。
すると、そのあとスクッと立って、給茶機で紙コップにお茶を入れ、私に差し出してくれたんです。
ネガティブになっていた私は、心の中で大量の涙が一気にあふれ出しました。
西田さんにお茶を運んでいただくなんて失礼すぎるのは分かっているのですが、何をどうすればいいのか、何といえばいいのか、頭が回らなくなっていました。
ただただありがたく、嬉しくて、胸が熱く…。
そして、初対面なのにまるで友だちのように「お茶飲んで、飲んで。いろいろ大変でしょう~」と、笑顔で言って、その後、快く取材に応じてくれました。
ネガティブだった私の心を見通しているのだと感じました。
人の哀しみを暖かく包む優しさがどれほどの力を持つか。
「人の哀しみを救う」ということ以上の力を人は持っているのだろうか。
ないんじゃないだろうか。
そう感じた一日でした。
あの日のことは、忘れられません。
心からご冥福をお祈りします。
心からありがとうございます。