スピーチは冒頭第一声のトーンで決まる
トーク・スピーチ
講演やスピーチを依頼されたとき、冒頭はどんなトーンで話しだしますか?
「みな様、こんにちはーー!!」
「お元気ですかーー??」
「はじめまして。〇〇でーーす」
など、大きな声でパワフルに第一声をスタートしますか?
スピーチや講演の第一声は、大きな声で元気よく。
と、教えるスピーチ教室もありますし、自称スピーチの達人という方が音割れしそうな声でYouTubeに登場することも多々あります。
講演を始めたばかりの頃、私も必ず元気にスタートを切りました。
高いテンションで始めたほうが、勢いがあり、自信があるようにも見えるのではないかと思ったのです。
当時は緊張を隠したくてたまらなかったので。
ところが、最初に元気すぎる声を上げた瞬間、聴衆が引くことが分かったのです。
高く元気すぎる声で冒頭の自己紹介をしたとたん、聴衆の心が離れ、皆の頭の上にクエスチョンマークがついているように見えました。
私は、焦りました。
そして、焦りを隠そうと、更にテンションを上げると、更に聴衆がどんどん離れていくのを感じました。とても怖い時間でした。
こんな恐ろしいことがなぜ起きるのか、何回か同じ経験をしてやっと分かりました。
人は、命令をしたり、上からものをいう人を嫌います。
逆に、優しくされたり、話を聴いてくれたり、親切にしてくれたり、下から自分の心に入ってくる人に安心感を持ちます。
声のトーンも全く同じだったのです。
下からゆっくりと、優しく入ってくる声に安心感を持ちます。
ゆっくりと優しく、丁寧に話してくれると、自然に心が開きます。
けれど、冒頭でいきなりテンション高く迫られると、強引に心をこじ開けられているような気分になってしまうのです。
しかも聴衆にしてみれば、ほとんどが初対面ですから、余計です。
強引に心をこじ開けようとすれば、相手は当然心を閉ざしてしまいます。
ハイテンションでスタートすると、スピーカーも聴衆も冒頭から心拍数が上がり、緊張を促進してしまうのです。
これが、聴衆が引いてしまった理由でした。
裏を返せば、自信の無さが必要以上の高いテンションになり、その本質を聴衆が見抜いたとも言えます。
講演、スピーチ、プレゼンテーションの冒頭から高いテンションでスタートする方の多くは「圧倒して聴衆を自分の話に巻き込みたい」と願っています。
ですが、聴衆は話しの内容に興味を持ちたいのであって、大きな声に圧倒されたいわけではありません。
私はそのことに気が付き、低く優しく、ゆっくりとした声で口火を切ることにしました。
すると、打って変わって聴衆の気が自分に集中し、全員を吸引できたことをはっきりと感じ取りました。
まるで、誰かが魔法をかけたのではないかと思うほど、一瞬にして会場中の空気が私に集中したのです。感動しました。
冒頭でトーンを抑えるコツは、ゆっくり話し始めることです。
ゆっくりと話せば、必然的に声のトーンは下がります。
優しく話すことも十分できます。
そして、低く、優しく、ゆっくりとした口調でスタートすると、自分自身の心が落ち着きます。
自信がみなぎり、これからのスピーチを価値あるものにできるという確信が体中にあふれます。
私はこれをスペシャル・スローインと名付けました。
アメリカのTEDなどを見ると、ハイテンションで出てきて「みなさん、こんにちはーー」なんてスタートする人はほぼいません。
大声のハイテンションスタートは、日本独特のものなのかもしれません。
人は上から来るものに警戒しますが、下からくるものには心を許します。
ですから声も、聴衆の下から滑り込ませて、聴衆を立てます。
下からスルッと入って、いつの間にか虜にしてしまう。
冒頭のスペシャル・スローインは、まるで素敵な恋の始まりのようです。